とりあえずほしゅー!!
最近忙しいから場所だけとっとかないととっとかハム太郎

やー

やっとゆっくり書けそうだよ…

とりま自分の中でも整理する意味を込めて総集編を作るテスト



我ながらよく言えたな、と思う。

「優樹さんの指を一本、くれませんか」





童子斬りと同化していたせいか、考えが多少アヤカシ寄りになったのかもしれない。太一郎はそれが無性に嬉しかった。人間だったときは得られなかったものを得られた気がして。失ったものに関しては、少しだけ考えの外に置いた。

太一郎は「未知」と手をつないで歩いていたが、こんな明け方、幼女と手をつなぐ隻腕の大男が居たら、通報されてもおかしくはない。だが、不思議な事に誰ともすれ違わなかった。これが彼の右腕に残された最期の「隔離」であるとは太一郎が気付くはずもなかった。

1.1(3)

「カレー作ってあげられなくて、ごめんね」

ゆうさん、わらってた
きっとゆうさんにはもうあえない
いやだ、いやだ

でも、ゆうさんをこまらせるのはもっといやだ
だからなかないんだ




「…すまなかった。」

太一郎は、まっすぐ前を見つめていた。

「…ゆうさんいじめた」

未知は、はっきりとした声音で言い放った。

「すまなかった」

鵺のネジ、山の神・八牧、二重雑種・片倉優樹…。三人目は未遂に終わったとはいえ、太一郎は二人のアヤカシを殺害していた。

「やまきのくまさんいじめた」

なかない、なかない、なかないんだ。

「すまなかった」

「やまきのくまさん…うごかなく…なった」

なかないんだ、なかないんだ。

未知の視界は既にぼやけていた。声を出したら負けだ、なぜかそう未知は言い聞かせていた。何に負けるのか、わからなかったけど。

このおじさんはきらいだけど、ゆうさんがこのひととかえりなさいっていうから、かえるんだ。





―覚えておけ、俺を殺した者の名を。そして伝えろ、優樹に
―その名は




やっぱりゆるせない。




「いっ!」

未知がさっきまでつないでいた太一郎の左手に噛みついた。



「…、もう、いじめない。誰もいじめない。」

「はぐっ!はぐぅうう!!うああああああああ!!」

ないてない。ないたらゆうさんこまるから。なかないってきめたんだ。
だからないてない。

1.2(3.1)

もどりたくない。もどりたくない。ろっかにいたい。
やっぱり、ゆうさんのいるろっかがいちばんすき。

ゆうさん、ゆうさん…

―カレー

いや

―作ってあげられなくて

いや

いわないで

―…ごめんね?

「うわあああああああああっ!はぐっ!ああわああ!!あああ!!」

未知は叫びながら顎に一層の力を込めた。もう何も噛めなくなるかもしれない、と思うくらいに。




「俺が」

「俺でよければ、つくるよ、カレー」

こんなもので償えるとは到底思えなかったが、他に何が出来るとも思えなかった。右腕があれば、未知の頭を撫でることもできたのに、と思ったが、彼女がそれを許すとも思えなかった。左腕だけでも料理はできるよな、と冷静に分析している自分が憎らしかった。
優樹とどういうやりとりをしたのかは知らないが、それが優樹と未知の結んだ約束であったことは容易に想像できた。


「…きらいなものは?」

「…ない」

本当はあったが、以前ご飯を残して八牧に怒られたことがあったので、未知は反射的にそう答えてしまった。この人は残したら怒るだろうか。

「そいつはよかった」

太一郎はボロボロになったズボンの端で血とよだれにまみれた左手をごしごしと拭き、また未知と並んで歩き始めた。




「優樹、君は僕に『あとはよろしくお願いします』と言ったね?何をよろしくと君が言ったのか、僕はわからない。が、それをいちいち語っている時間も余裕もなかったのは重々承知している。だから、僕は僕のしたいことをしたつもりだ。僕は傍観者だと思いたがっていたが、既に傍観者ではなかったのだな。いつからとは言わない。何があったかも聞かないでおこう。いや、聞く権利がない。僕は翔べないシームルグなのだからね。翔べないシームルグは、傍観しないシームルグだ。ああ、また誰もいないのに空に語りかけてしまった。ふむ、空に語りかけるというのは言い得て妙だね。今僕は屋内にいる。さりとて、それほど閉鎖的な空間でもない。一郎君が風穴を開けていったからね。しかし、空に語りかけるなんて言う慣用句があるわけでもないが、空に語りかけると言えば独り言と相場が決まっている。比喩表現の一人歩きというわけかな?どう思うかね?飯田」

ここまで一息で呟いて、また大田は殻ごと落花生を口に放り込んだ。

「相変わらず話が長いことだ」

それだからお前は若いやつから疎まれるんだ、という言葉を飯田は飲み込んだ。もともと長居する気などさらさらない。担いだ「荷物」を下ろしたら帰る。帰る?どこへ?「主」はもういない。いつ目覚めるとも知れない眠りについてしまった。飯田には珍しく、自嘲気味なその表情に大田は気付いていた。しかし、また大田に珍しく、その理由に言及するのは避け、彼が担いできたその「荷物」の方に視線を移した。

「世話をかけたみたいで、すまないね」

「気にするな。やれることをやったまでだ」

言って、飯田は「荷物」を静かに床へ下ろした。片方ずつ、ゆっくりと。そこにはおそらく海で負った火傷をしこたまこしらえた火蜥蜴と、体中を切り刻まれ、ツヤのある漆黒の毛皮をドス黒く汚した虎が横たわっていた。


2.1

「これはまたこっぴどくやられたね、虎司くん」

大田は口調とは裏腹な表情を浮かべ、傷ついた黒き虎を見下ろした。

「…るせぇや、鳥、頭」

「ふむ、見た目よりも元気そうで安心したよ?君はおそらく僕に山ほどとは言わずとも言いたいことがあることだろうに、僕への軽口を最優先したのだからね?まあ虎司くんが本当に死にそうな時、僕へ泣き言を言うのかどうか興味のあるところではあるが、それを確かめようとするほど僕も悪趣味じゃない。ふむ、ほぼ傷は塞がりかけている。飯田の手当が迅速だったおかげだね、彼に感謝せねば」

虎司は何かいいかけたが、面倒くさそうに耳をぴくぴくと震わせるだけにした。


2.2

「さて。今の僕に何が出来るだろうか。嘴以外のものを挟んだ結果がこれか。勿論後悔などしていない。優樹はなんて言うだろうね。彼女の性格上、僕を責めることは絶対に無いだろうけど、彼女の生と死が最期まで彼女のものであったかどうかは気になるところだね。はて、虎司くん」


「…っだよ」


「優樹には会えなかったようだね?」

見れば分かるような事を言う大田だが、その言動はあえてひとつひとつを確認したがっているように見えた。

「ああ…線路の上で…ザッキーの野郎に火蜥蜴と一緒に海に落とされてよぉ…」

「モノレールだね?」

おおよそ予想通りだった。夏純の火傷がそれを物語っている。

「…優樹と合流させないためにまず君たちを狙ったわけか」

童子斬りの獲物を追う事にかけての知能は、予想以上に発達していたようだ。だが、むしろこの子たちにとってはそれがよかったかもしれない。この子たちは八牧の仇を殺し返したがっていたが、優樹は彼を殺したかったわけではなかったから。
飯田がここに安藤を連れてこなかったことをみると、おそらく救急車を手配したのだろう。アヤカシは病院に連れて行かなくとも良いが、人間はそうはいかない。


「安藤は…そうだ、安藤はどうした!!」

「ふむ…女子高生ならここには来ていないね。おそらく飯田が病院に連れて行くよう手配したはずだ。憶測でものを言うのは好きではないがね?生身の人間が線路の上から海面に叩きつけられたら、少なくとも無事では済まないね。しかしここにいないということは、飯田がよしなに手配したと考えるのが彼への礼儀というものだよ、虎司くん」

頭から聞く元気は虎司になかったが、病院という単語を聞いて納得することにした。


3(4)


「夏純ちゃん、水嫌いなのにどうして競輪場は好きかなあ…?」
―優さん、それ競輪じゃなくて競艇よ、競艇
「私には全部同じに見えるよ…」
―なあに言ってるのよ優さん、全然違うわよ
「まあギャンブルはほどほどにね」
―私が負けないの知ってるでしょ、優さん
「勝ってるうちはいいけどねぇ…」
「…そんなもの」
―なあによーみんなしてー
「胴元が勝つようにできている」
「まあ気をつけるんだよ、夏純ちゃん」
―だーいじょーぶよー

手をひらひら振って別れた。あれはいつのことだったか。

―優さん、あたしやっぱり「悲しい」ってわからないみたい。くるさん殺された時も、やまさんころされた時も、優さんがボコボコにされた時も、殺し返してやるってしか思えなかった。

「夏純、もし君が悲しみを覚えたとして、人間で言うところの「涙」を流すとしよう。そのとき、君は目の回りを火傷するのかな?それとも感情の昂ぶりに任せて流れた途端に蒸発してしまうのかな?わからない。そもそもの前提が成り立たないとこの実験も成り立たない。実験というと君は怒るかも知れないがね。他意はない。どうか気にしないでくれ。僕の場合この「他意がない」のが問題だと言われるけどね」

―あたしよくこんなの覚えてるなあ…

大さんは話が長いから嫌い。嫌いっていうか…そう、めんどくさい。

でも…



涙って流したらどうなるんだろう?







4(5)

やりたいこともできたし、お母さんに手紙も書いたし、浦さんにも挨拶したし、先生には全部よろしくって言ってきちゃったし…あ、遺書じゃないって書いたのに結局遺書みたいになっちゃったな。お母さんごめんなさい。手紙にもたくさん書いたからもう謝らなくてもいいかな。先生の言ってた、「きみの生と死はきみだけのものだ」っていうのがなんとなくわかった気がします。じゃ、後をよろしくお願いします。完全に一人になるのは無理かも知れないけれど、それなりに人里離れたところで逝きます。





「太一君。」

さっきまで殴り合って、殺し合ってたのに、なんでこんなこと言うんだろう。

「私も君のこと、好きだよ。少なくとも、一緒に暮らしてもいいかなって思えるくらいには」

思えるだけで、それで、よかったのかな。それができない体だとしても。

「好きだったじゃなく、今でも好きです。優樹さん」

いいのかな。それで。私じゃなくて、君が。

人でも、アヤカシでもない、女の二重雑種。

ああ、君も混じりっけ無しの人間じゃなくなっちゃったけどね。

最期の最期に、ただの二重雑種は女の二重雑種になれた気がするよ。

ありがとう。




5(6)


足取り重く…というよりは、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた太一郎は、六課の扉があった場所を見つめていた。おそらく大田がいるらしいその場所は、太一郎にとっても思い入れのある場所だった。優樹と苦楽をともにした場所。傷ついた優樹になにかしてあげたくって、料理を振る舞ったこともあった。どうしても触れたくて、彼女が嫌がるのを無視して触れた。右腕に違和感を感じ、あまりにも今の自分は在りし日の光景から遠ざかっている気がして、太一郎は視線を落とした。

「行くしか…ないか」

「……」

未知はあれからずっと口を真一文字に結んでいる。本当はもう太一と話しても良いかなと思っていたが、何を話せば良いかわからないし、どうしても二人の共通の話題は優樹の事なので、思い出してつらくなるくらいなら無言でいることを選んだ。

「今日は来客が多いね。しかし…大歓迎だよ。僕もいろいろ話したいことがあるし、君にも聞かなければいけない事が山ほどある。山と言っても…そうだな、富士山二つ分ほどかな?おお、未知と呼ばれた幼女。君も無事だったんだね?それはそれは本当によかった。優樹の姿が見えないようだが…そうか。彼女が僕によろしくと言った意味がこれではっきりとわかったよ。本当に彼女は僕に『全て』を任せたのだね…これはとても悲しいことだ。しかし、同時に今僕は喜びを感じてもいる。彼女の生と死に敬意を払うことに。」

「…相変わらずだな」

太一郎は開口一番謝ってやろうかと思ったのに、ついつい憎まれ口を叩いてしまった自分を恨んだ。

「相変わらずだな、とはご挨拶だね、一郎君。君が僕を快くは思っていないことは知っているがね?例えばここで僕が『あ…山崎君、おかえりなさい』とでも言えばよかったかね?それとも激情に任せて君をタコ殴りにすれば君の気は晴れるのかな?」

「…」

本当は大田が以前と変わらない対応をしてくれて、太一郎は嬉しかった。つい、同じように返したぶっきらぼうな返事も、太一郎にとってはすごく懐かしく感じた。今度は何か言おうとしたのに、何も言えなくなってしまった。

「僕が君と以前話した時のように接したのと同じように君は僕に接してくれた。その友情のような物に僕は敬意を表しよう。そして、その証拠といってはなんだが、君に最期のアドバイスをする。勝手ながらね。」

太一郎は黙って大田の目を見た。大田の細い目が太一郎を見据えていた。

「君は八牧を殺した。八牧はすべりこみセーフとはいえ内閣公認の甲種アヤカシだ。君は殺アヤカシの容疑で裁判になる。そして、状況はどうあれ、君は優樹を苦しめた。ここにいる虎司や夏純もね。僕にも正拳を食らわせたがそれは不問にしよう。寛大だねえ僕は。ここから導かれる結論は一つだ。」

「ここを一刻も早く去り、赤川を頼りなさい。」

「ああ、そこの幼女は僕が面倒を見よう。優樹から全てを任されたからね?ずっとここにいるわけには行かないが、然るべく処置をするつもりだ。ただ、こと人間の犯罪とか法律とか裁判とかになると僕は全く興味がないし、そこまで面倒は見きれない。君はもう字義通り大の大人なのだから、自分で考え、自分で行動しなさい。せっかくその体がまた戻ってきたのだから。五体満足とは…いかなかったがね?優樹が救ってくれた命だ。こういう時、人間の間では『彼女の分まで精一杯生きなさい』とでも言うのかも知れないがね。」

太一郎の体が、震えていた。大田の細い目がさらに鋭くなったのを太一郎は見ることはなかった。
「…すみませんで、した…」

「何を謝る事がある。君はあの生ける屍の忘れ形見に乗っ取られ、僕の友達を殺し、傷めはしたが、もう一つの僕の望みは叶えられた。すなわち、『優樹と君の生と死が自身の物であること』だ。」

太一郎は童子斬りに乗っ取られているとき、何も対策を講じなかったわけではない。何度も童子斬りを操ろうとし、そしてそのたび挫折した。アヤカシを見かけるたびに意識が遠のき、見知らぬ場所に立っていた。自らの命を絶とうと思ったが、
死にたくなかった。優樹に会いたかった。

「とにかくだ。ここにいる虎司くんと夏純を起こしたらまたぞろ厄介な事になりこそすれ事態はいつまでも収束しない。君のことを思って僕は退散した方が良いと助言しているのだよ。一郎くん、誤解しないで欲しい。僕は素直に嬉しいと思っているのだよ。心からね。また、この僕が素直などと言ったら優樹に笑われてしまうかもしれないがね?人間として罪を償える喜びを心ゆくまでかみしめたらまた会おうじゃないか。」

「あんた、やっぱりやなやつだな」
鈍感な太一郎にもわかるくらい、大田の気遣いが身に染みた。

「その言葉は若者には言われ慣れているよ」

「じゃあ、この子をよろしく頼む。」
散々歩いてきたからか、未知は虎司の背にしがみついて眠っていた。虎司は時々くすぐったそうに身をよじるが、未知はすでに布団と化した虎司の毛皮を手放そうとはしなかった。

「うむ。承諾したよ。優樹からも宜しくされてしまったからね。」

「じゃあ、また」

「うむ。機会があればね」





「ありがとう、ございました」

太一郎の背中がそう呟いた。

ように、大田には聞こえた。







「やれやれ、まったく手のかかることだ」





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